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葛藤と逡巡と妬みと嫉みと
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 帰りの特急で窓際に座った母は、車窓から流れ去る山梨の景色をじっと見ていた。

 Sさんのライブの興奮も醒めやらぬ状態で昨日、ブログをアップロードし終わり、いつの間にか日付が替わり一息着いていると突然弟からメー ルが来た。内容は簡単に、山梨の叔父が危篤である事を伝えていた。母は既に弟が車で山梨へ連れて行ったようで、母にメールを入れると、叔父の状況は良くないらしかった。弟は仕事のため東京へとんぼ返りしたという。
 午前1時。自動車を持っていない僕は、電車が走り出す時間まで待つしかなかった。

 課長に今日休む旨をメールで送り、まだ真っ暗な明け方、僕は一人電車で山梨へ向かった。まだ特急電車も走っていない時間だ。鈍行電車を乗り継いで向かい、駅からタクシーに乗って山梨の家に着いた時にはすでに午前9時を回っていた。
 挨拶もそこそこに、叔父の部屋へ向かう。ベットに横たわる叔父と、その叔父の手を静かにさすっている母の姿がそこにはあった。幸い叔父は明け方持ち直したようで、一時は血圧が20とか30だったようだが、僕が着いた頃には普通の状態になっていた。叔父に話し掛けると、少し口篭った感じでは有ったけれども、ちゃんと受け答えをする。どうやら意識はハッキリしているようだ。聴くと叔父は危篤の状態の時もハッキリと周りの人が何をいってどういう行動をしていたのかおぼえているという。

 これなら大丈夫だろうと、夕方、前日から殆ど寝ていない母を連れ、一旦東京に戻る事にした。駅まで親戚に車で送ってもらい、特急の指定券を2人分僕が買い、東京行きの「かいじ」に乗り込んだ。窓際に母を座らせ、僕はその隣に座る。

 列車が走り出した。母が生まれて育った山梨の風景が流れ去っていく。オルゴールのようなチャイムが鳴り、車掌はこの先の停車駅と到着時刻を告げた。

 窓際に座った母は、車窓から流れ去る山梨の景色をじっと見ていた。

 母は40年以上前に、故郷の山梨を捨て東京に出て、そして僕を生んだ。
 母の目に写るこの過ぎ去る風景はどんな感じなのだろうか。
 地元を捨てて東京に向かう車窓からの、当時の景色とダブらせているのだろうか?
 大月を過ぎるまで、母はじっと流れ過ぎ去る景色を静かに見つめていた。
 八王子を通過する頃僕が隣を見ると、いつの間にか母は目を閉じ、静かに眠っていた。叔父がどうにもならない今、母はどんな夢を見ているのだろうか? 母の心に去来するものは……?

 明日は母の誕生日だ。

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Ocha
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51
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性別:
男性
誕生日:
1972/11/25
職業:
会社員
趣味:
多数
自己紹介:
 若い頃は転々と職を変え、一時は教習所の教官を経験するも、結局古巣の建設業に戻り、現場監督から、現在は設計者に。
 酒と煙草と家族と亀を愛するアラフォー万年平社員。

 そして職歴と同じようにブログも転々とし、三度地面の下から復活。殆ど時事ネタを書かない、情報としては全く価値のない私的な内容を送る、読んでも全くタメにならない、どーしよーもないこのブログへようこそ。

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