中野ベース

　ボーッとしていると発狂しそうだった。

　悪夢を観て午前４時半に寝汗をビッショリかいて起きた。窓から外を見ると（当然だけど）まだ暗い。NHKのニュースを見ると日の出は６時５０分頃だという。コーヒーを淹れて、ダラダラと時間を潰して日の出を迎え、また窓から外を確認すると、なんとどんより曇っていた。ああ、なんてこった。今日は朝から散歩でもしようかと思っていたのに、曇っていたんじゃ気分が乗らない。リビングにゴロリと横になり、今日も一日ダラダラと過ごすかな……と、目を閉じた。

　数時間して、遅番で出社する奥様を送り出すと、子供達も起きてきた。またリビングにゴロリと横になると、洋服を取り出すために娘が家族全員の服を収納してある和室の襖を開け放った。その開いた襖から僕は横目で綺麗に片付けられている和室見た。
　和室は去年まで物置と化していた。大掃除で部屋としての機能を取り戻したモノのコレと言った使い道もなく、いわばデットスペースのようになっていた。そこで僕は勝手に和室を「書斎」と呼び、和室の領有権を事ある毎に家族に主張してきた（家族の誰も納得はしていないが）。しかし今まで、特にコレと言って領有権を具現化する行動をしたりせず放置してきたのだ。そして、その広々とした６畳間の使用されていない空間を見つめていたら、僕は突然思いついた。

「そうだ、書斎に店を広げよう」

　まるで、「そうだ、京都へ行こう」的なノリだけど、ふと、そう思ったんだ。そう思ったんだから仕方がない。発狂しそうな精神状態から一転、所ジョージ氏の「世田谷ベース」よろしく、Ochaの「中野ベース」を作ろうと思い立ったのだ。

　まず第一弾として、去年一度撤収した鉄道模型を広げる事にした。
　段ボール箱の上にベニヤ板を置き、その上に発泡スチロール版。そうしてその上にシンプルにレールを敷き、まだまだ数は少ないがストラクチャー（建物の模型とかだね）を置く。
　本来なら庭に人間の乗れるような大きな模型を（遊園地とかにあるアレね）走らせたいのだが、いかんせん我が家は賃貸マンションで庭などない。おまけに室内スペースも限られている。レール幅９ミリのNゲージが最大限の譲歩というところ（なににだ？）なのだ。
　ところが、レールを敷設し終わって、いざ走らせようとすると、機関車は動き出さない。ウンともスンとも言わない。Nゲージと言うのは、レールに電流を流して走らせるのだけれども、どうやら長い間放置していたせいで、レールに汚れや埃が溜まって電流が機関車に電気が届かないようだ。いわば接触不良のような状態。仕方がないので、綿棒をクリーニング液に浸けてシコシコとレールを磨く。そうすると書斎（和室）に籠もってる父親を不審に思ったのか長男R君がやってた。運転させてあげることを交換条件にR君にもレール磨きを手伝わせる。何度も何度も磨き黒い煤が綿棒に付かなくなるまで磨き上げる。カメラ用のブロアで埃を飛ばすのも忘れない。
　磨き続ける事約３０分。もう一度レールを敷設し直し、機関車を走らせると、今度はスムーズに走った。R君と一緒に拍手喝采である。
　しばらくテスト走行をした後、運転をR君に任せる。運転の仕方を一通り教えて、最初はポイントの切り替えとかぎこちなかったR君だがだんだん慣れてきて、スムーズに走らせられるようになってきた。

　R君はその後、ずーっとNゲージの側から離れず、ひたすら列車を走らせて遊んだ。プラレールと違い、デリケートなので大切に扱うように教えたが、それも守っている。線路は出しっぱなしにしておくので、いつでも遊んで良いと伝えると、「おーっ」と言って喜んでいた。

　あっという間に時は過ぎ、子供達は就寝し、奥様が仕事から帰ってきた。
　奥様は着替えのため僕の書斎（和室）に入って行くと、一瞬Nゲージのレイアウトの前で動きが止まり、何か言いたげだったが、別段何も言わなかった。

　よしっ！！（ガッツポーズ）

　書斎（和室）の「中野ベース」、これからどんどん拡張していくぞ。僕の精神安定の為に。６畳しかないけどさ。

　さて次は「中野ベース」に、何を引っ張りだすかな。